ABS樹脂メッキとは

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ABS樹脂メッキは、ABS樹脂に金属の被膜(メッキ)を施す技術です。この処理により、金属的な外観や耐久性、耐摩耗性など、製品の外観と機能性の向上が期待できます。導電性を付与することも可能なため、電子機器や自動車部品など、幅広い分野で活用されている加工技術です。金属的な光沢や質感を得られるため、装飾目的で使用されることも多く、家電製品の外装にも使われています。

そもそもABS樹脂とは

ABS樹脂(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂)は、アクリロニトリル(A)、ブタジエン(B)、スチレン(S)の3種モノマーを組み合わせた熱可塑性樹脂です。耐熱性や耐衝撃性、光沢性、加工性といった機械的特性のバランスに優れ、射出成形や押出成形、真空成形など、多様な加工に適しています。

また、ABS樹脂は表面の光沢性や着色性に優れ、デザイン性の高い製品にも向いています。ただし、紫外線や有機溶剤への耐性は高くないため、長期的な屋外使用や化学環境下では劣化のリスクがあります。

ABS樹脂へメッキ加工する目的やメリット

メッキ加工の目的

ABS樹脂へのめっき加工は、製品の軽量化やコスト削減を目的として広く採用されています。金属部品をABS樹脂に置き換えることで、製品全体の重量を削減し、輸送や取り扱いの利便性が向上します。

加えて、樹脂自体の成形の自由度が高いため、複雑な形状の製品にも適用可能。さらに、めっき加工により、導電性や耐食性を付与し、電磁波シールド効果も期待できます。金属的な光沢感を加えることで、製品の美観や質感を向上させることができ、幅広い用途に対応可能です。

ABS樹脂へのメッキ加工のメリット

ABS樹脂にメッキ加工を行うメリットは以下の通りです。

ABS樹脂のメッキ加工の用途

ABS樹脂のメッキ加工は、自動車部品や住宅・設備機器、家電・電子機器など幅広い分野で活用されています。

ABS樹脂へのメッキ加工の工程

ABS樹脂へのメッキ加工は、以下の工程で行われます。

  1. 脱脂:表面に付着した油分や汚れを除去し、後続の工程での密着性を高めます。
  2. エッチング:化学薬品で樹脂表面に微細な凹凸を作り、めっきが定着しやすい状態にします。ABS樹脂の場合、クロム酸と硫酸の混合溶液が一般的です。
  3. 触媒付与・活性化:エッチング後の表面にパラジウムなどの触媒を付与し、無電解めっきの前処理を行います。
  4. 無電解めっき:電気を使わず、化学反応を利用して金属膜を形成します。これにより導電性が付与され、次の電気めっき工程が可能となります。
  5. 電気めっき(後処理):無電解めっきで下地を作った後、用途に応じてニッケルやクロムなどを電気めっきし、最終的な仕上げを行います。

ABS樹脂へのメッキ加工事例

ABS樹脂に静電気対策を施した事例

塚田理研工業 ABS樹脂に静電気対策を施した事例
画像引用元:塚田理研工業
https://www.tukada-riken.co.jp/column/abs_static_electricity/

ABS樹脂は絶縁体であるため、表面に静電気が発生しやすいのが課題です。この静電気の蓄積は、製品の品質や安全性に影響を及ぼす可能性があるため、適切な対策が求められます。

静電気の発生を防ぐための方法はとして効果的な手段の一つが、ABS樹脂の表面にめっき加工を施すことです。めっきにより、樹脂表面に金属膜を形成することで、導電性を付与し、静電気の蓄積を防止できます。

塚田理研工業では、ABS樹脂製のクシに対して特殊表面加工「JP CHROME-TECH®加工」を施しました。この加工により、クシの表面は滑らかになり、金属的な美観を持つとともに、ブラッシング時の髪へのダメージや静電気による髪の広がりを抑える効果が得られています。

フロントグリルにクロムメッキを施した事例

三恵 フロントグリルにクロムメッキを施した事例
画像引用元:三恵
https://www.sankei-gk.co.jp/product/exteriorparts.html

三恵技研工業は、自動車の外装部品において、高い耐食性と優れた外観品質が求められるフロントグリルに対し、ダーククロムめっきを施す事例を展開しています。

このダーククロムめっきは、通常のクロムめっきとは異なり、深みのある色調を持ち、車両のデザイン性を高める効果があります。

射出成形により、精密な形状と高い寸法精度を実現。i-Coat®技術を用いることで、薄く軽量でありながら光や電波透過性を持つ金属光沢の表面処理が可能になりました。

さらに、樹脂めっき技術により、ABS樹脂やPC/ABS樹脂、PP樹脂などの素材に対して、高耐食性を持つ装飾用クロムめっきを施すことができます。

スポーティーなデザインを表現する新漆黒めっき

豊田合成 マツダCX-5のフロント部
画像引用元:豊田合成
https://www.toyoda-gosei.co.jp/news/details.php?id=1051

豊田合成は、2022年2月、従来の漆黒めっきをさらに進化させた「新漆黒めっき」を開発しました。 この技術は、光輝感と深みのある黒色を両立させ、スポーティーな車両デザインを実現することを目的としています。

開発にあたり、同社はめっき薬液の改良を行い、2014年に開発した漆黒めっきと比較して、明度を約20%低下させ、従来の技術では表現が難しかった濃い青味を加えることで、より深い黒色を実現しました。この新漆黒めっきは、2021年12月にマツダ株式会社が発売したCX-5のフロント部に採用されています。 新漆黒めっきの開発により、より深い黒色と光輝感を両立させた加飾技術が実現し、自動車のデザインニーズに応える製品提供が可能となりました。

自動車のメーターリング

角一化成 自動車のメーターリング
画像引用元:大型2色成形.com Produced by 角一化成
https://2syokuseikei.com/case/917/

自動車のメーターリングにおけるABS樹脂のメッキ加工事例として、角一化成の取り組みが挙げられます。

従来、メーターリングはポリカーボネート(PC)製品とABS製品を別々に成形し、ABS製品にメッキ加工を施した後、PC製品と組み立てる方法が一般的でした。しかし、この方法では組み立て時に締結形状が必要となり、意匠の完全な再現が難しいという課題がありました。

この課題に対し、同社は母材にABS、二次材にPCを用いた回転2色成形技術を提案。ABSはメッキが乗りやすく、PCはメッキが乗らない性質を活かし、一度成形した製品をそのままメッキ槽に浸漬させることで、ABS部分のみにメッキ加工行えますた。この結果、組み立て工程が不要となり、製造工数の削減や意匠面の再現性向上を実現しました。

ABS樹脂メッキまとめ

ABS樹脂へのメッキ加工は、軽量化やコスト削減、機能性・意匠性の向上など多方面でメリットが得られる技術です。自動車部品をはじめ、住宅設備や家電・電子機器など幅広い分野でさらなる活用が期待されています。

このサイトでは、「高品質な内外装部品の量産」「電子機器への電磁波シールド」「アクセサリーのニッケルフリー」という3つの目的別に、おすすめのプラスチックメッキ加工メーカーをご紹介しています。自社のニーズに合ったメーカーを見つけるために、ぜひご活用ください。

【目的別】
プラスチックメッキ加工会社3選

製品の性能や耐久性を高めるためには、自社のニーズに合ったプラスチックメッキ加工会社を選ぶことが重要です。

目的に応じたおすすめの加工会社を厳選してご紹介します。

高耐食性・高品質な
内外装部品の量産

なら
白金鍍金工業
(しろがねめっきこうぎょう)
白金鍍金工業公式HP
引用元情報:白金鍍金工業公式HP
(https://www.siragane.co.jp/)
耐食性の高い加工で
耐久性のある部品を大量生産

75年以上※にわたりめっき加工を手掛け、自動車メーカー向けにドアハンドルや内外装部品にめっき。耐食性を付与する3層のニッケルめっきを採用し、耐久性・品質の高い加工を実現。様々な加飾バリエーションへの対応とエレベータ方式設備、画像検査システムや膜厚シュミレータを併用し、生産性と品質保証の両面を向上しています。

例えばこんな用途に
  • 自動車の内外装部品
  • シャワーヘッドなどの水栓部品
  • 遊戯部品や家電製品の装飾など
電磁波の影響を抑えた
精密機器の加工

なら
塚田理研
(つかだりけん)
塚田理研公式HP
引用元情報:塚田理研公式HP
(https://www.tukada-riken.co.jp/)
電磁波シールド性と放熱性を
両立しためっきに対応

電子基板メーカー向けのプリント配線板加工で培った技術をもとに、無電解銅と無電解ニッケルを使用した電磁波シールドめっきを提供。精密機器のハウジングやコネクタに金属並みの導電性を持たせ、電磁波ノイズを遮断。
軽量化とノイズ対策に役立つメッキ加工を提供します。

例えばこんな用途に
  • ノートPCの外装
  • スマートフォンのフレーム
  • CTスキャン装置のシールドなど
肌に優しい仕上げの
アクセサリー

なら
林精器製造
(はやしせいきせいぞう)
林精器製造公式HP
引用元情報:林精器製造公式HP
(https://www.hayashiseiki.co.jp/)
装飾めっきを
ニッケルフリーで加工可能

創業から腕時計の外装部品製造に携わり、精密な仕上がりと高級感を追求。ニッケルフリー仕様で加工をするため、肌に優しく、多彩な色調や光沢・サテンの質感を表現が可能。
時計の外装のほか、リングやペンダントなど、デザイン性と安全性を兼ね備えた製品を実現します。

例えばこんな用途に
  • 時計のフレーム
  • リング
  • ピアス・イヤリングなど

※参照元:2025年2月3日調査時点 白金鍍金工業公式HP(https://www.siragane.co.jp/)

【目的別】
プラスチックメッキ
加工メーカー3選