プラスチックメッキ加工とは、装飾用途だけでなく、導電性や耐摩耗性、電磁波シールド機能の付与にも活用され、多くの産業分野で採用されています。
プラスチックメッキ(樹脂メッキ)とは、プラスチック製品の表面に金属膜を形成する技術です。目的は大きく分けて2つあり、装飾として金属光沢を与え高級感や美観を高める「装飾目的(加飾メッキ)」と、電磁波シールド特性や導電性などの機能を付与する「機能目的(機能メッキ)」があります。自動車の外装部品や家庭用品、電子機器の筐体やプリント基板など、さまざまな分野で利用されています。
溶液中の化学反応によって金属膜を形成する方法です。さらに以下のように分類されます。
電流を使って金属イオンを還元し、製品表面に金属膜を形成します。ただし、プラスチックは絶縁体のため、そのままでは電気メッキができません。まず無電解メッキで導電性を付与してから電気メッキを施すのが一般的です。
電流を使わず、化学反応のみで金属膜を形成します。プラスチックメッキの初期工程としてよく用いられ、以下の種類があります。
真空環境下で物理的または化学的手法を用いて金属膜を形成します。代表的な方法は以下のとおりです。
プラスチックメッキの中でも一般的な処理の一つです。耐食性や硬度が高く、表面の耐久性を高めると同時に光沢による高級感も得られます。さらに電磁波シールド効果が期待できるため、電子機器の筐体などにも用いられます。
高い反射率と美しい光沢を持つため、装飾用に広く採用されています。自動車の内外装や家庭用品など、デザイン性を重視する製品に適したメッキです。耐摩耗性・耐食性にも優れ、表面保護の役割も果たします。
主に下地メッキとして利用されます。プラスチックに導電性を与え、その後の電気メッキを容易にするために施されることが多いです。展性が高く複雑な形状にも対応しやすいほか、熱伝導性が必要な場合にも利用されます。
優れた耐食性と高い導電性を持ち、電子部品や接点部分によく使われます。金特有の美しい色合いから装飾目的にも用いられ、高級感を演出。酸化や腐食に強く、過酷な環境下でも性能を維持するのが特徴です。
金属の中でも高いレベルの導電性と熱伝導性を持ち、電子機器や電気接点で多用されています。光沢が美しく、装飾分野でも人気がありますが、硫化による変色が起こりやすいため、保護コーティングなどの対策が必要です。
無電解メッキの触媒として活用されるほか、耐食性に優れるため、電子部品の保護や高品質な下地として用いられます。プラスチック表面に導電性を付与する際に欠かせない存在です。
ABSとポリカーボネートをブレンドしたABS-PCは、ABSの加工性とポリカーボネートの耐衝撃性・耐熱性を併せ持つため、幅広い用途に使われます。ポリカーボネートの比率が高い場合はエッチング条件の調整が必要です。適切に処理すれば優れた密着性と美観を実現できます。
豊田合成が開発した漆黒メッキは、金属の光沢に深みのある黒を組み合わせた技術です。従来のダークメッキより約30%黒味を増し、スポーティーかつ高級感のある意匠を実現。独自に開発したメッキ液の組成により、黒色自体をメッキ層に持たせ、経年劣化による光輝感の低下も抑えます。
金属光沢を残しながら、落ち着いた暗色の外観を得られる技術です。クロムメッキより黒味が強く、高級感や重厚感を演出するため、自動車や電子機器の外装などで採用されています。メッキ薬液や処理条件を調整することで、好みの色調や光沢感を得られるのも特徴です。
金属表面に微細な凹凸を付け、光沢を抑えた上品な質感をつくるメッキです。指紋や傷が目立ちにくくなるため、美観を長期間保ちやすいのが特徴。自動車の内装、家電製品、家具の取手など、落ち着いたデザインを求める製品に適しています。
塩分による腐食リスクが高い海岸地域や、冬場に塩化物を散布する地域向けに開発されたメッキ技術です。通常のメッキ層に加え、耐食性の高い金属層を設けるなどの処理を行い、塩害による劣化を防ぎます。自動車の外装部品や建築資材、海洋機器など、過酷な環境で使用される製品の信頼性を高める重要な手法です。
これらのメッキ技術を用途やデザイン、機能要件に合わせて使い分けたり組み合わせたりすることで、プラスチック製品に多彩な装飾性と機能性を付与できます。
プラスチックメッキには、多様な樹脂が使われており、それぞれ独自の特性を持っています。用途や目的に応じて、最適な素材を選ぶことが重要です。
ABS樹脂は、アクリロニトリル、ブタジエン、スチレンの3成分を組み合わせた熱可塑性樹脂で、強度・剛性・耐衝撃性・成形性に優れています。表面に微細な凹凸を作りやすく、メッキ膜との密着性が高いため、プラスチックメッキの定番素材です。自動車の内外装部品や家電の外装、日用品など、多彩な製品で採用されています。
ポリカーボネートは透明性と耐衝撃性、さらに耐熱性や寸法安定性にも優れた熱可塑性樹脂。ただし、単独ではメッキ膜との密着が十分でないため、ABS樹脂とのブレンド(PC/ABS)で使われることが一般的です。PCが持つ高い物性とABSのメッキ適性を両立でき、自動車部品や電子機器の外装などに広く応用されています。
ポリプロピレンは軽量で、耐薬品性・耐水性・耐疲労性に優れた熱可塑性樹脂です。非極性で表面エネルギーが低いため、メッキ膜との密着は難しく、直接のメッキ加工は困難とされています。そのため、表面処理の工夫や他の素材との複合化などで対応する場合が多いです。主に自動車部品や家電製品の内部構造材として利用されています。
ポリアミドは機械的強度や耐摩耗性、耐薬品性に優れていますが、吸水性があり湿度によって寸法変化が起こりやすい特徴があります。ガラス繊維などで強化すれば寸法安定性が高まり、メッキの適用も可能です。主に機械部品や電子部品で使われています。
PPE/PSブレンドは、PPEの耐熱性や機械的強度、寸法安定性と、PSの成形性を組み合わせた材料です。メッキを施す際には表面処理の工夫が必要ですが、適切に行えば電子機器の外装や自動車部品などにも応用できます。
ポリイミドは耐熱性・耐薬品性・機械的強度が高く、電子部品や航空宇宙分野など、過酷な環境下での使用に適しています。ただし、化学的に安定しており表面エネルギーが低いため、メッキ膜との密着を確保するのが難しい素材です。そこで、ウェットブラストなどで表面を粗くして凹凸を作り、機械的な密着力を高める手法が採用されています。
フッ素樹脂は高い耐熱性・耐薬品性・非粘着性・低摩擦性を備え、化学プラントの配管や食品加工機器、電線被覆など、幅広い分野で活用されています。しかし、表面エネルギーの低さと化学的安定性の高さから、メッキ膜との密着を向上させるのは容易ではありません。そのため、特殊な表面処理や接着促進剤の使用などが検討されます。
PEEKは耐熱性や耐薬品性、機械的強度、耐摩耗性に優れたスーパーエンジニアリングプラスチックです。航空宇宙、医療機器、電子部品、自動車部品など、過酷な使用環境を想定した分野で広く使われています。金属部品の代替素材としても注目されていますが、表面が化学的に安定しているため、メッキとの密着を確保するには表面粗化などの前処理が欠かせません。
プラスチック製品にメッキを施すと、さまざまなメリットが得られます。主な利点は以下のとおりです。
プラスチックは金属よりも軽く、加工がしやすい素材です。そのため、自動車などの分野では、金属部品をプラスチック部品に置き換えることで車両全体の重量を減らし、燃費や環境負荷の低減に貢献できます。メッキを施せば、金属のような質感や外観を保ちながら、軽量化と製造コスト削減を両立できます。
メッキ加工を行うことで、プラスチックに金属特有の光沢や質感を加えることができます。高級感や洗練されたデザインが得られ、製品の付加価値を高められます。さらに、メッキの種類や厚さを変えることで多彩な色合いや仕上げを表現でき、デザインの幅が広がります。
プラスチックにメッキを施すことで機能性を付与することができます。
プラスチックは成形しやすく、複雑な形状や細部までこだわったデザインを実現しやすい素材です。ここにメッキ加工を組み合わせることで、機能性と美観を兼ね備えた製品を開発できます。
プラスチックメッキと金属材料へのメッキは、基材の性質が異なるため、工程や技術にもはっきりした違いがあります。
このように、プラスチックメッキと金属材料へのメッキは、基材の特性によって工程やコスト、目的が大きく変わります。それぞれの特徴を正しく理解し、適切なメッキ技術を選ぶようにしましょう。
プラスチックメッキ加工は、自動車部品や電子機器、インテリア用品など、さまざまな製品に利用される技術です。しかし、加工料金は一律ではなく、製品の形状や材質、ロット数によって異なります。
適切なコスト管理のためには、価格の決まり方を理解し、業者選定のポイントを押さえることが欠かせません。
プラスチックメッキ加工には、不良の発生を防ぐための適切な工程管理が必要です。剥がれやピンホール、バリの発生など、よくある不良の原因と、それを防ぐための対策を紹介します。
成形から仕上げまでの各段階で注意すべきポイントを押さえ、品質向上に役立てましょう。
プラスチックメッキ加工の試作を検討中の企業向けに、対応可能なメーカーについて解説します。小ロット対応の可否、納期や費用、各社の技術特長を比較し、適切な選択肢を見つけるためのポイントを紹介。さまざまなプラスチック素材へのメッキ加工に対応するメーカーを一覧化しました。
製品の性能や耐久性を高めるためには、自社のニーズに合ったプラスチックメッキ加工会社を選ぶことが重要です。
目的に応じたおすすめの加工会社を厳選してご紹介します。
75年以上※にわたりめっき加工を手掛け、自動車メーカー向けにドアハンドルや内外装部品にめっき。耐食性を付与する3層のニッケルめっきを採用し、耐久性・品質の高い加工を実現。様々な加飾バリエーションへの対応とエレベータ方式設備、画像検査システムや膜厚シュミレータを併用し、生産性と品質保証の両面を向上しています。
電子基板メーカー向けのプリント配線板加工で培った技術をもとに、無電解銅と無電解ニッケルを使用した電磁波シールドめっきを提供。精密機器のハウジングやコネクタに金属並みの導電性を持たせ、電磁波ノイズを遮断。
軽量化とノイズ対策に役立つメッキ加工を提供します。
創業から腕時計の外装部品製造に携わり、精密な仕上がりと高級感を追求。ニッケルフリー仕様で加工をするため、肌に優しく、多彩な色調や光沢・サテンの質感を表現が可能。
時計の外装のほか、リングやペンダントなど、デザイン性と安全性を兼ね備えた製品を実現します。
※参照元:2025年2月3日調査時点 白金鍍金工業公式HP(https://www.siragane.co.jp/)